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パワーアップデバイス——少年が自分より強い者と戦う方法

How can small boys fight with adults and win? In this article, Prof. Isamu Takahashi discusses the supportive devices used by heroes in manga.
© Keio University

少年主人公が、年長の、それゆえにより自分より大きく、強く、そして狡猾な相手を倒す姿に、私たちはとりわけ強いカタルシスを感じるものです。それはひとえに、そのような課題を達成することが、私たちの生きる現実世界では控えめに言ってもとても困難だからです。ですが、主人公が突拍子もない超自然の能力を使えたらどうなるでしょう?

万能の魔法としての「忍術」

この欲求を若者向けフィクションにおいて満たしてきたのが、忍術でした。もちろん、忍術は子どもの登場人物だけのものだったわけではありません。江戸時代、ほとんどが悪役ではありましたが、一部の大人の忍者や盗賊も、敵と戦うために妖術を用いました。最も有名な忍者の例として、巨大なカエルを操り自分自身もカエルに変身する自来也を挙げることができるでしょう。 [fig.1]

Jiraiya in Ukiyoe by UTAGAWA Kuniyoshi Fig.1. 「自来也」の浮世絵 歌川国芳 本朝水滸伝豪傑八百人一個 12 (10 December 2014, at 01:22) Wikipediaのリンク

一方、アクティビティ2でも触れた猿飛佐助は少年忍者です。師のもとで三年間忍術の修行を積んだのち、15歳で真田幸村に見出され、その家臣として仕えるようになります。この佐助のイメージが、長いあいだ「大人と戦う少年」のアーキタイプとなっていたと言えるでしょう。若いヒーローである少年は、勇気を胸に、超自然的な力を手にして、手ごわい敵と戦う宿命を与えられているのです。ここでの忍術は、ヒーローの「パワーアップデバイス」として機能し、相対的な力の欠如を補完しています。ここで佐助と、世界的に有名な子ども記者のタンタンを比べてみましょう。1929年、エルジェによって創作されたタンタン [fig.2]は、勇敢で賢い彼は、自分自身の力のみを頼りに(ときには銃の力を借りることもありますが)秘密や陰謀と戦います。ふたりを比較することにより、現代日本の「バトルもの」の物語の多くが、同じ「佐助」のパターンを踏襲していることに気づくことができるでしょう。それでは以下、(便宜上の理由で)主に少年漫画から、いくつかの例を見てみたいと思います。

Tintin by Hergé Fig.2. 『ななつの水晶球』表紙 エルジェ「タンタンの冒険」シリーズ第13作 1948年(オリジナル版、1983年福音館書店より日本語翻訳版) 画像を拡大して見る

日本の漫画における少年忍者

日本の漫画やアニメの「少年忍者」について語るとき、白土三平の『サスケ』(『少年』1961~66年連載)の名前を避けて通ることはできません。かわいらしい顔の子どもでありながら、サスケは種々の忍術を扱う一流の忍者であり、幕府によって送りこまれた忍者や武士と戦います。白土はサスケの忍術について、詳細で一見科学的な説明を読者に提供していますが、ほとんどの場合、それらの忍術は実行不可能と言ってよいでしょう。より魔法に近い例が、安西信行の『烈火の炎』(『週刊少年サンデー』1995~2002年連載)に見られます。主人公の花菱烈火は、忍者に憧れる現代の少年ですが、自分の手に炎を生み出す能力を持っており、現実の忍者の戦いに巻きこまれていきます[fig.3]。この物語には、超自然的な力としての炎を生み出す忍術やその他の魔法アイテムが数多く登場します。

Rekka no Hono Fig.3. 炎を操る花菱烈火 © 烈火の炎 2巻 p98, 安西信行 小学館 1995年

また、岸本斉史は『NARUTO-ナルト-』(『週刊少年ジャンプ』1999~2014年連載)で別の忍者ヒーローを創作しました。若い忍者見習いのうずまきナルトは、なぜか村で孤立しています。実はナルトの内には、強力な妖怪、九尾の狐が封印されているのです [fig.4]。この作品には、強力で幻想的な忍術に加え、サスケや自来也といったなじみ深い名前のキャラクターが登場します。

Naruto (left) and Shura no Mon (Left) Fig.4. 忍者の武器で武装するナルト 『NARUTO‐ナルト‐』2巻 p71 © 岸本斉史 集英社 2000年 (Right) Fig.5. 『修羅の門』3巻 表紙 川原正敏 講談社 1988年

厳密には忍術ではないものの、川原正敏の『修羅の門』(『週刊少年マガジン』1987~96年、2010年~2015年連載) [fig.5]で描かれる陸奥圓明流という武術は、超自然的忍術の亜種と呼んで差し支えないでしょう。千年の歴史を誇る最強の武術、陸奥圓明流の若き継承者である陸奥九十九は、圓明流が「最強」であることを証明するため、終わりのない命がけの戦いに身を投じます。九十九やその他の格闘家たちは、確かに超自然とは言わないまでも、ほとんど人間の能力を超越したような技を振るっています。例えば「龍破」は、両足を素早く交差させて相手の頭を狙う蹴り技ですが、たとえ躱されても、高速の足の動きによって発生した鎌いたちが相手を切り裂くのです。

超自然の力を身につけたヒーローたち

忍術が(かなり改変されているとはいえ)歴史的根拠を持つのに対し、臆面なく「超自然的」であるその他の力も、ヒーローには与えられるようになりました。この傾向は、とくに1980年代における西洋のファンタジー文学やコンピューターゲームの輸入以降顕著になったと言えます。この意味において、荒木飛呂彦のもはや伝説的となった『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(『週刊少年ジャンプ』で1987~2004年、『ウルトラジャンプ』で2005~現在連載中)は、この変化を架橋する典型例と言うことができます。第一部・第二部では、主人公はヴァンパイアを倒すため、古代東洋の「道教」に由来する波紋という謎の技を使いますが、後半のシリーズでは、キャラクターたちは幽波紋(スタンド)の力を借りて戦います[fig.6]。スタンドは、超自然的な力を(人間の形で)具現化したものです。

Jojo no Kimyo-na Boken Fig.6. 『ジョジョの奇妙な冒険』2巻 p272-273 © 荒木飛呂彦 集英社 2002年

車田正美の『聖闘士星矢』(『週刊少年ジャンプ』1986~1990年連載)では、少年は古代の神々の加護を受けた力「小宇宙(コスモ)」を内在させています [fig.7]。女神アテナに仕える「聖闘士(セイント)」たちは、「聖衣(クロス)」と呼ばれる神聖な鎧を身につけ、小宇宙によって高められたそれぞれの必殺技を繰り出すのです。

Saint Saiya Fig.7. ペガサスの聖闘士である星矢はペガサスメテオブラストでドラゴンの聖闘士・紫龍と対戦する。 ワイド版『聖闘士星矢』 1巻 p290 © 車田正美 集英社 2008年 聖闘士・星矢がもう一人の聖闘士・紫龍と戦う

星矢たち聖闘士の冒険は(ファンタジー的とはいえ)地球上で起きているのに対し、真島ヒロの『FAIRY TAIL』(『週刊少年マガジン』2006年から現在連載中)のように、西洋の「ハイ」ファンタジー、あるいはファンタジーRPGに近い世界で展開する物語もあります。主人公の少年ナツは炎の魔法使いで、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)でもあり、タイトルの「フェアリーテール」とは、ナツの所属する「ギルド」の名前なのです[fig.8]。

Fairy Tail Fig.8. 『FAIRY TAIL』2巻 p58-59 真島ヒロ 講談社 2007年 ナツが火竜の翼撃を繰り出す。

これと好対照をなすのが、荒川弘の『鋼の錬金術師』(『月間少年ガンガン』2001~2010年連載)でしょう。こちらの世界では、半科学半魔法の「錬金術」がスチームパンク的な19世紀風の文明で利用されています[fig.9]。主人公のエドワード・エルリックは、史上最年少の国家錬金術師で、錬金術と世界の秘密に深く足を踏み入れています。

Hagane-no Renkinjutsu-shi Fig.9. エドワード・エルリックと、鎧に魂が宿った彼の弟 『鋼の錬金術師』 3巻 p88-89 荒川弘 スクウェア・エニックス 2002年 エドワード・エルリックと弟・アルフォンス・エルリック

役に立つ魔法のアイテム

魔法のアイテムが主人公に特別な力を与えることもあります。『鬼切丸』(『少年サンデー超増刊号』1992年~2001年連載)には、伝説の刀剣が登場します[fig.10]。

ここでの「鬼切丸」とは、少年のような外見の主人公が振り回す古代の日本刀の名前であり、少年自身の名前でもあります。少年は実は強力な鬼であり、鬼らしい角は見当たりませんが、実は他でもない彼の不思議な刀こそがその角の具現化したものなのでした。

Onikiri-maru Fig.10伝説の刀剣・鬼切丸を持った主人公が敵の悪魔を倒す。 © 鬼切丸 1巻 p137, 楠敬 小学館 2006年

鬼切丸が初めから超自然的の生まれであるのとは対照的に、藤田和日郎の『うしおととら』(『週刊少年サンデー』1990~96年連載)のうしおは、最初は(いつも一生懸命で熱血ではあるけれども)普通の日本人の少年として登場しますが、自宅の蔵で魔法の力を持つ槍と、その槍によって壁に縫い止められている古代の強力な妖怪、とらを発見します [fig.11] 。この「獣の槍」はかつて妖怪を倒すために作られたもので、うしおを変身させ、その魂と引き換えに任務をこなす特殊な力をうしおに授けます。

Ushio to Tora Fig.11. 槍を持ったうしおと彼の仲間になるとら。 © うしおととら1巻 p112-113 藤田和日郎 小学館 2004年

同様に、久保帯人の『BLEACH』(『週刊少年ジャンプ』2001~2016年連載)の主人公黒崎一護は、多少霊感が強い普通の高校生でしたが、魂を回収する死神代行の仕事をすることになります。その結果、一護は任務を遂行するために、善良なさまよう魂を救い、邪悪な魂を滅ぼす不思議な力と、「斬魄刀」と呼ばれる特殊な刀を与えられます [fig.12]。

Bleach Fig.12. 『BLEACH』1巻 表紙 久保帯人 集英社 2002年

ここまでの三作品が東洋の神話や伝説の要素を含んでいるのに対し、岩明均の『寄生獣』(『月刊アフタヌーン』1990~1995年連載)は、SFホラー寄りの作品です[fig.13]。17歳の少年、泉新一の右手に、姿かたちを変えられる生物が偶然寄生し、新一はこの生物をミギーと名付けます。「普通の」寄生獣(計画通り人間の頭部に寄生した寄生獣)には、その常軌を逸した能力をもって本能的に人間を殺そうとするため、新一には様々な災難が降りかかりますが、ミギーの強力な助けにより何とか生き延びます。

Kisei-ju Fig.13. 新一と剣に姿を変えたミギー [Left] 『寄生獣』3巻 p30 岩明均 講談社 1991年 [Right] 『寄生獣』3巻 p48 岩明均 講談社 1991年

これと似てはいますが、より不気味とも言える状況を描いているのが、前出の荒木飛呂彦による『バオー来訪者』(『週刊少年ジャンプ』1984~1985年連載)です。17歳の主人公、橋沢育朗は誘拐されて人体実験を受け、「バオー」と呼ばれる寄生虫を脳に移植されて強力な生物兵器に改造されます。脳内の寄生虫の働きにより、攻撃を受けると皮膚が硬質化して防具となり、超人的な強さと回復能力を発揮するようになります[fig.14]。

Baoh Raiho-sha Fig.14. 『バオー来訪者』 p110 © 荒木飛呂彦 集英社 2000年

パワーアップデバイスとしてのスーパーロボット

「ロボット」もまた、より特定の形で想像された魔法のアイテムと考えてよいでしょう。この道を拓いたのは、いわゆる漫画の神様、手塚治虫だと言えます。手塚の『鉄腕アトム』(『少年』1952~68年連載)には、10歳くらいの男の子の姿(天馬博士が交通事故で死んだ息子の代わりに作ったため)をした人型ロボットが登場します。ただし、このロボットは原子力を動力としていて、例えば重いものを持ち上げたり、高速で飛行したりするなど、特殊な(もちろん超人的な)能力を持っています [fig.15] 。切ないことに、アトムは超人的な力だけでなく感情と良心も併せ持ち、そのために彼は自分のアイデンティティに疑問を抱かずにはいられません。

Tetsuwan Atom Fig.15. 『鉄腕アトム』1巻 表紙 手塚治虫 小学館 1999年

対照的に、横山光輝の『鉄人28号』(『少年』1956~1966年連載)では、主人公の少年とロボットは別個の存在で、ロボットは巨人とされました[fig.16]。巨大ロボットはリモコンで遠隔操作され、ここでは操縦者のアイデンティティは問題になりません。つまり、操縦者が善良であるか否かは関係ないのです。

Tetsujin 28-go Fig.16. 『鉄人28号』光プロダクション/エイケン

操縦者が巨大なロボットの中に搭乗すると、永井豪の『マジンガーZ』(『週刊少年ジャンプ』1972~73年連載)のような作品が生まれます。主人公の高校生、兜甲児は自宅の地下にある祖父の研究室で巨大なロボットを発見します。それは、ロボット軍団を従えて世界征服を目論む凶悪なドクター・地獄(ヘル)と戦う手段として、甲児のために開発されたものでした [fig.17]。

Mazinger Z Fig.17. 『マジンガーZ』1巻 p44 永井豪 講談社漫画文庫 1999年

ここに至り、このパワーアップデバイスの流れが、ガイナックスの『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京1995~96年放映、漫画(貞本義行・著)『月刊少年エース』及び『ヤングエース』1994~2013年連載)でひとつの頂点を迎えたことが分かるでしょう[fig.18]。

Shin-seiki Evangelion Fig.18. 『新世紀エヴァンゲリオン』14巻 表紙 貞本義行 角川コミックスA 2014年

主人公の碇シンジは15歳の少年で、実の父親によって半ば強制的に、巨大生物兵器「エヴァンゲリオン初号機」を操縦させられることになります。エヴァンゲリオンは、人類を絶滅しようとする「使徒」から世界を守るために、ごくわずかな選ばれた人間の神経組織とだけシンクロ(同期)して起動します。エヴァンゲリオンの力のフィールドだけが使徒のフィールドを突破することができるため、パイロットたちは世界を使徒の脅威から守る唯一の希望となるのです。さらに、ロボットたちは独自の意志または意識を持っているようにも見えます。『エヴァンゲリオン』は、日本の巨大ロボットアニメというジャンルを脱構築したと度々指摘されてきましたが、ロボットアニメより古い歴史を持つ、戦う少年を助けるデバイスの系譜を継承する最新の作品でもまたあるのです。

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This article is from the free online

日本のサブカルチャー入門

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