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基本的な装訂の種類1 – 巻子装

基本的な装訂の種類1 – 巻子装

和本の装訂には大きく5種類があります。このステップでは、中でも最も格式の高い「巻子装」についてご説明します。まず、以下のテキストを読んだ後、佐々木教授の説明をビデオでご覧ください。

5つの主な装訂

書物は二枚以上の紙を順序付けて纏めたものであると定義できます。紙の纏め方によって産み出される本の形態を「装訂(そうてい)」と言いますが、その方法により形に差ができることは言うまでもありません。日本で用いられた装訂は、基本的にすべて中国で発明されて順次に伝わってきたものと考えられます。そのありさまは、先に説明した漢字の「音(おん)」が中国から何度も伝わってきて、日本で蓄積されていったのと似ています。

装訂は中国で生まれたものですが、日本におけるその受容のあり方は、中国や朝鮮半島における使用の実態とは大きく異なっていたようです。その違いを生んだ要因はさまざまに考えられますが、もっとも大きな理由は出版の普及の差であったと思われます。中国では、唐代の7世紀には発明されていたとされる木版印刷術によって制作された版本が、宋代からは書物の中心的な存在となり、「坊刻本(ぼうこくぼん)」と呼ばれる民間出版も宋代には始まっています。国土が広く識字層も多かった中国では均一な本文を行き渡らせる方法として、出版は重要な存在であったと考えられるのです。

ところが国土も狭く識字層も少なかった日本では、印刷の方法自体は8世紀には伝わっていたものの、経典を中心とする仏教関係書の出版が大きな寺院を中心に行われたのみで、商業出版の確立は、朝鮮半島から伝わった活字印刷技術と、キリシタン宣教師が持ち込んだ西洋の活版印刷術が起爆剤となって、活字印刷による出版が活発におこなわれるようになる17世紀を待たなければなりませんでした。このあたりは3週目に一戸さんから説明がある事柄です。

出版とは量産であり、本の作り方に効率が重視されるのは当然のことでした。そのため中国やその影響を色濃く受けた朝鮮半島では、版本の製作に最も適した装訂が主流となり、一部の例外を除いてその他の装訂法は殆ど使用されなくなっていったのです。

一方写本を中心とする時代が長く続いた日本では、効率とは殆ど無関係な一点物の製作においては、様々な装訂の長所や短所を理解した上で、保存する内容や製作の目的に適合した装訂を選択して用いるのが普通でした。このことにより、日本では幾種類もの装訂が長い間併存することになったのです。 日本で用いられた装訂で比較的良く用いられたのは以下の5種です。おそらくこの順番で日本に伝来したものと考えられます。

  1. 巻子装(かんすそう)
  2. 折本(おりほん)
  3. 粘葉装(でっちょうそう)
  4. 綴葉装(てつようそう)
  5. 袋綴(ふくろとじ)

これらの構造を簡単に整理しておくと、1~3は糊を用いて紙を纏めるものであり、4・5は紐や糸を用いるものです。3~5は冊子と呼べるもの。3・4は紙の両面を用いるのが普通のもので、1・2は裏を利用する場合もあるものです。それではこの5種について、具体的に説明していきましょう。

1. 巻子装(かんすそう)

最初に糊を用いて紙を繋げるものから。まずは、巻子装(かんすそう)です。

Kansuso (scroll binding) 図1. 巻子装(かんすそう)

紙を糊で貼り継ぎ、先端に表紙を末端に軸を付けて、軸から巻き取って保存する装訂です。軸の紙からはみ出した部分のことを「軸頭(じくがしら)」と呼び、表紙の先端部分の細く盛り上がった部分を「八双(はっそう)」と呼びます。表紙の先端部分で細い半円柱の形に削った竹を巻き込んで糊付けしてあるもので、これで表紙が本体にぴたっとくっつくことができますし、しっかりと巻いたままにするための「巻紐(まきひも)」を固定させることもできるのです。

巻子装は紙の表にあたる内側のみを利用するのが基本で、表に書き切れない情報を裏に書入れることもあります。これを「裏書(うらがき)」と言います。

紙を使った最も古い装訂方法であり、漢籍や仏書といった重要な内容が記されて中国から伝わったので、日本においては最も権威ある装訂として認識され、中国で殆ど用いられなくなった後も、正式・公式な書物の作成には好んで用いられました。仏教経典や献上本などではことに好んで用いられています(図2・図3)。

Tōdaiji Hachimankyō Daihannya haramitakyō 図2:東大寺八幡経 大般若波羅蜜多経巻第六十七
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Shinsen Tsukuba-shū 図3:新撰菟玖波集巻一
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また拡げると一度に見える分量が冊子本よりも多いのが特徴でもあり、絵のあるものや系図などにもよく用いられました。難点としては、見たい箇所を直ぐ見られず、見終わった後に巻き戻さなければならない点ですが、そうしたあつかいが面倒であることが逆に権威性を高める要素でもあったのかもしれません。書物の内容の一まとまりを「巻(まき・かん)」と称するのは、この装訂に由来するものです。この装訂の本を数える単位は現在では「軸(じく)」を用いるのが一般的です。

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古書から読み解く日本の文化: 和本の世界

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