コミュニティ・コレクションのライフサイクル

コミュニティとの強い結びつきは、コレクションに個性を与え、活発な利用を促す一方で、不安定さをもたらす場合もあります。コミュニティの構成員が変化したり、社会との関わりの中で活動の重心が変わったりと、コミュニティにはライフサイクルがありますが、コミュニティ・コレクションは、そのコミュニティとの結びつきの強さゆえに、コミュニティのライフサイクルに大きく影響をうける可能性があります。

大学のコレクションを巡る課題：孤児コレクション（Orphan Collection）

大学のアカデミック・コレクションを例に考えてみましょう。アカデミック・コミュニティにおいて、その研究の方向性が変化したとき、以前の研究的関心に沿って形成されたコレクションが使われなくなり、忘れ去られ、最悪の場合は破棄されてしまうことがあります。また、大学全体の動向によってもコレクションは危機にさらされます。新しい学問分野、あるいは社会的に要請の高い学問分野に対応するために行われる大学の教育・研究組織の再編は、アカデミック・コミュニティとそのコレクションの両方にとっての大きな試練です。このようなさまざまな状況の変化により、属していたコミュニティから切り離され、適切なケアを受けられなくなったコレクションは、「孤児コレクション（Orphan Collection）」と呼ばれています。孤児コレクションを巡る諸問題は、1960年代以降のヨーロッパでいち早く明らかになり、大学ミュージアムがそれに対応すべくアクションを起こしました。1980年代から、さまざまな国、地域の大学ミュージアムがネットワークを形成して課題を共有しています。2001年には、ICOMでの入念な議論の末に大学博物館・コレクション国際委員会（UMAC）が国際博物館会議の国際委員会として創設され、以来国際的な議論と実践の共有の場となっています。

日本における大学の状況

国内の大学コレクションについても、似たような状況があります。国内の大学は、1918年の近代大学制度の発足より、いくつもの制度・組織改革を経験してきました。なかでも、第二次世界大戦後の新制大学への移行と、1991年に行われた「大学設置基準」の大幅な改正は、非常に大きな変化でした。大学設置基準は、大学の組織と教育の基本条件を定める法令です。1991年の改正により、学部の教育課程の編成に大きな自由が認められるようになったことで、新たな学部や教育課程が次々と設置されるようになりました。その後も、少子化への対応、グローバル社会下における国際的競争力強化など、様々な観点から教育・研究構造の見直しが求められ、大学の組織や活動にも絶え間ない刷新が要請され続けています。 このような状況のもと、日本でも、各大学のミュージアムが中心となって、コレクションの保全や活用に奔走しています。

コミュニティ・コレクションをめぐる状況の変化に対応するためには？

ここまで、大学のアカデミック・コレクションを例にとって、コミュニティを取り巻く社会状況の変化やそれに伴うコミュニティ自身の変化が、コレクションに与える影響について概観してきました。このような状況の変化に対応し、コミュニティ・コレクションを現代に活かしながら保全するためには、どのような手立てがあるでしょうか。次のステップでは、元々のコミュニティとの繋がりを大事にしながらも、コレクションをより広い活用に開いていくことによって、コレクションを現在の状況に再接続しようとしている国内の大学ミュージアムの挑戦を紹介します。