コミュニティと信頼ある関係を育む

「精読八景」を、共有に焦点を当てた展覧会として実現するために、いろいろな工夫をしましたが、そこからまた気づくこともありました。ここではそのなかから3つのポイントを取り上げます。

1. コレクションを持ち寄りたくなる場をつくる

この展覧会を開催するにあたり、KeMCoが最初にしたことは、コンセプト・シートを携えて、三田キャンパスでコレクションに関わり活動するコミュニティを訪ねることでした。そして、コレクションや個々のオブジェクトが、その人々のコミュニティの中でどのような歴史を持っているのか、どういった魅力を持っているのかを、丁寧に伺うようにつとめました。コレクションが尊重されるイメージを明確に描けなければ、自分たちが大事にしているコレクションを、一時的にとはいえ別の場所に持って行く気にはなりません。

「精読八景」はKeMCoにとって、他のコミュニティと協力する初めての展覧会であったため、理解と信頼を深めるには時間がかかりました。

^{「オブジェクト・リーディング: 精読八景」展の設営風景}

一方で、実際にオブジェクトを陳列しているときには、ある種の祝祭的な雰囲気がありました。所有するオブジェクトをそれぞれのチームが並べていたのですが、他のチームの様子を覗いて、オブジェクトについて尋ねたり驚いたりする様子は、大人の文化祭を思わせるものでした。こういった「原初的な楽しさ」は、大学ではなかなか出会えないもので、KeMCoだけではなく参加した人たちにも新鮮だったようで、トリエンナーレやビエンナーレという形でこういった展覧会を開催できないか、という話もでました。

2. コミュニティの特性を明らかにする

「空き地」における自律性という観点からすると、展覧会の会場にオブジェクトを並べたときに、それぞれのモノがどのようなコミュニティからきていて、そのコミュニティがどのような特性を持っているのかを可視化することがとても大切です。これを、解説テキストで説明するよりもより直感的に理解してもらう方法がないか考え、「受入票」をオブジェクトと併せて展示することにしました。

^{受入票の展示風景}

受入票は、オブジェクトを自分たちの取り扱うものとして受け入れる際に、そのオブジェクトを記述するフォーマットです。研究・教育のためにオブジェクトを受け入れるという行為は、さまざまな専門的コミュニティにおいて共通するものですが、その記述の方法やフォーマットはそれぞれに異なり、そこにコミュニティの特性が表れます。異なるコミュニティのコレクションを一同に展示するときには、なんらかの共通テーマを設定する必要がありますが、今回用いた「受け入れる」「記述する」といった行為や動作は、かなり専門性が異なるコレクションでも、共通項を見出しやすい枠組みなのではないかと感じました。

3. 来場者とコレクションとの関わりをつくる

沢山の人が来場する展覧会は、コレクションが知られ（共有され）、新たな解釈に開かれていくチャンスです。一方、通常の展覧会では、観客はコレクションを眺めるだけで、コレクションについてフィードバックすることはあまりありません。来場者と展示されたオブジェクトとの間に関係性を生み出すことができれば、コレクションの共有は大きく前進することになります。

精読八景では、来場者が会場に並ぶオブジェクトにより深く関わるための仕掛けとして、デザイナーの尾中俊介さんと一緒に「八景ピース」というワークシートを作成しました。

^{八景ピース}

このワークシートでは、1. オブジェクトを出品している各コミュニティの専門性を、受入票から読み解いてみる　2. 自分だったらどのような視点でそのオブジェクトを記述するかを、作品を読み解くための「問い」を投げかけるという形で表現する　という2つのワークを来場者に提示し、オブジェクトとの間により深い関係性を生み出そうと試みました。しかし、ワークシートだけで実現するには複雑過ぎるワークだったため、あまり有効に機能させることができませんでした。このワークシート企画を検証し再設計する試みについては、The KeMCo Review 01 の研究ノートで詳述していますので、適宜参照してみてください。