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ウラジーミル・プロップによる民話の機能の分析:〈贈与者〉と〈呪具〉

Similarities with Propp’s formulation of folktales
© Keio University

ここまで見てきた「パワーアップデバイス」は、それぞれの物語において明確な役割を持っています。主人公が敵と戦い、自分より強い相手と鎬を削り、厳しい世界で生き抜くための手段を与えるという役割です。

魔法昔話における「機能」——プロップの分析

忍術の例に明白に示されているように、デバイスの役割は、ある意味「魔法的」ということができます。その役割をより深く理解するには、ロシアの民話研究者であるウラジーミル・プロップ(1895~1970)による、「おとぎ話」における〈ドナー(贈与者)〉と〈マジカルエージェント(呪具)〉の機能についての議論が役に立つでしょう。プロップは100編のロシア民話を調査した結果、機能面で見たとき、おとぎ話を構成する人物は7種類しかないと結論づけました(括弧の中のアルファベットはプロップが各機能に付けたものです)。

私たちが本書で研究の対象としているのは、機能そのものであって、機能を果す者やその働きかけを受ける客体などではありませんが、それにもかかわらず、機能が登場人物にどう割り振られているかという問題は、検討しておく必要があります。 この問題に詳しく答える前にも、機能の多くが、論理的に結び合って、一定の[行動]領域をつくりあげている、ということは指摘できます。それらの領域を総て合わせたものが、機能の荷い手たちと対応することになります。それが行動領域です。[魔法]昔話には、次のような行動領域があります。
  1. 敵対者(加害者)の行動領域。これは、加害行為(A)・主人公との格闘その他の闘い(H)・追跡(Pr)をふくみます。
    2.贈与者(補給係)の行動領域。これは、呪具贈与のための予備交渉(D)・主人公への呪具の贈与(F)をふくみます。
  2. 助手の行動領域。これは、主人公の空間移動(G)・不幸あるいは欠如の解消(K)・追跡からの救出(Rs)・難題の解決(N)・主人公の変身(T)をふくみます。
  3. 王女(探し求められる人物)とその父との行動領域。これは、難題を課すこと(M)・標をつけること(J)・[ニセ主人公の]正体を暴露すること(Ex)・[主人公を]発見・認知すること(Q)・第二の加害者の処刑をおこなうこと(U)・[主人公と]結婚すること(W)をふくみます。
    王女とのその父とを、機能をもとに厳密に弁別することは、不可能です。それでも、父親には、[娘の]婿への敵対的な態度に由来する行為として、難題を課すことが割り振られる場合が、もっとも多い。他方、ニセ主人公を罰するなり、罰せよと命ずるなりする場合も、すくなくありません。
  4. 派遣者の行動領域。これは、ただ、[主人公を]派遣すること(「つなぎの段階」としてのB)のみをふくみます。
  5. 主人公の行動領域。これは、探索に出立すること(C↑)・贈与者の求めに応ずること(E)・結婚すること(W)をふくみます。最初の機能(C↑)は探索者型の主人公にのみ特有のもので、被害者の主人公[には、それが欠け]それ以外の機能を果します。
  6. ニセ主人公の行動領域も、探索への出立(C↑)・贈与者の求めに応ずること(常に否定的な応じ方ですが。Ē)、さらにニセ主人公にのみ特有の機能としての、不当な要求をすること(L)をふくみます。
    かくして、[魔法]昔話には、七人の登場人物がいる、ということになります。[. . .] (Propp, pp.79-81)
プロップによれば、ひとつの〈行動領域〉が必ずしもひとりの登場人物に対応するわけではありません。つまり、ひとりの登場人物が複数の行動領域に関わることもあり、またひとつの行動領域が複数の登場人物に割り当てられることもあります。

〈贈与者〉と〈呪具〉

機能、あるいは行動領域のなかでも、私たちは〈贈与者〉の機能にとくに注意すべきでしょう。〈贈与者〉は、主人公に対して冒険に役立つものを授ける機能です。
ここで話に新しい人物が登場してきます。この新しい人物は、贈与者、あるいはより正確には、補給係と呼ぶことができます。ふつう、この人物[と主人公]は、森の中や路上などで偶然に出会います。(中略)そこで、この人物から、主人公は、探索者型のそれも、被害者型のそれも、ある種の手段(ふつう呪力のそなわったもの、つまり、呪具)を与えられます。この呪具が、やがて先へ行って災い・不幸を解消してくれることになります。しかし、主人公が呪具を手に入れるに先き立って、主人公は、きわめて多種多様な、ある働きかけ[贈与者からの働きかけ]を受けますが、そのいずれも、[それに対する主人公の反応が肯定的なものであれば]、呪具が主人公の手に入るという結果で終ることになります。 (Propp, p.39)
ここで言及されている〈呪具〉が、私たちがバトルの物語で「パワーアップデバイス」と呼んできたものに相当します。さらに、プロップはこう述べています。
呪具として用いられるのは、(1)動物(馬・鷲その他)。(2)呪力をもった助手たちが中から出てくるモノ(馬の出てくる火打石。若者たちの出てくる指輪)。(3)呪力をもったモノ(たとえば、棍棒・刀・グースリ・珠その他)。(4)[主人公の身に]じかに与えられる性質(力・動物に変身できる能力など)。主人公に与えらえれるこれらのモノを(さしあたりは仮称として)呪具と呼ぶことにします。(Propp, pp.43-44)
さらに、プロップは呪具が授受される形態を以下の九つのカテゴリに分けています。(1)呪具が直接に譲渡される。(2)呪具の在り処が指示される。(3)呪具が用意される。(4)呪具が売買される。(5)呪具が偶然主人公の手に入る。(6)呪具が突然出現する。(7)呪具飲まれる、または食べられる。(8)呪具が略奪される。(9)さまざまな人物が、すすんで主人公を助ける。 (Propp, pp.44-46)

〈呪具〉と〈主人公〉の役割

日本のバトルものの主人公は、構造的には、プロップが定式化した通りにデバイスや力を与えられています。たとえば『ドラゴンボール』では、悟空は最初の「必殺技」であるかめはめ波を、武術の師匠である亀仙人から厳しい修行を受けた末に身につけます。このケースにおいて、亀仙人は、難題を与え、やがて主人公に戦う手段を授ける贈与者として機能しています(ドラゴンボールそれ自体と、悟空の如意棒も、もちろん呪具に他なりません)。
主人公による呪具の獲得についてのプロップの分析はまた、この講義のコンテクストに関連して、主人公自身の機能についてさらなる示唆を与えてくれます。
[主人公が]呪具を手に入れた後には、今度は、呪具を使う段階が続きます。あるいは、生き物[助手]が手に入ったのであれば、主人公の命令にしたがって、助手が直接助けてくれる段階が続きます。
そこで、このことから、外面的には、主人公は、あらゆる[構造上の]意味を失ってしまうかのようにみえます。なぜなら、主人公は、何もしないからです。助手が、あらゆることをやってのけるからです。
しかし、それにもかかわらず、主人公の形態学上[構造上]の意味は、きわめて大きい。主人公の意図こそが、話の基軸となっているからです。主人公の意図は、彼が助手に与えるさまざまな命令という形をとって現れます。
そこで、今や、先に(中略)与えた定義よりも、さらに正確な定義を、「主人公」に与えることができます。魔法昔話の主人公とは、——話の発端では、加害者の行動から直接に被害を受けた(か、なんらかの欠如を感じている)人物[被害者型]か、あるいは、他の人物の不幸・災いなり欠如なりを解消することに同意した人物[探索者型]である。筋の展開の途上では、呪具(呪力をもった助手)を与えられ呪具を使う、あるいは、助手に仕えられる、人物である——というふうにいえます。 (Propp, p50)

主人公を主人公たらしめるのは、主人公の意図、つまり意志の力なのです。このことは、ほとんどのバトルの物語において、主人公の勇気、決断、及び/または真摯な努力が、冒険に不可欠な要素であることの説明になっています。主人公が持つ真の強さとは、その意志/心/魂であって、それを補う表向きの物理的な力を、パワーアップデバイスすなわち呪具が与えてくれるのです。

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