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オリジナル作品と二次創作

Excerpt from Hiroki Azuma Otaku: Japan's Database Animals.

日本の「二次創作」という慣習がポストモダニズムの観念とリンクしていることをこれまで見てきました。そこで次の疑問ですが、「二次創作」にはほかの文化的慣習に見られるような特徴はあるのでしょうか。

次の一節は、2008 年に東浩紀と北田暁大によって編集され、同世代理論と評論に特化した雑誌である『思想地図』の創刊号で、日本語で当初出版された、” Urbanscope Vol.7 (2016) 17-19、桝田聡の“Database, Pakuri (Rip-offs), Hatsune Miku からの抜萃です。

東が提示したオタクの議論によって誘発された興味深いテーマのひとつが、一見して完全に無関係なように見える、オタク文化とヒップホップ・ミュージックとの間の関係でした。この課題に関する今までの研究について概説すると、音楽学者である桝田聡は、「二次創作」とサンプリング行為との間の類似性と相違について注意深く考察しています。この調査は、世界中のサブカルチャーにおけるポストモダンの実践のアフロ―アジアの側面を否応なく露呈させています。

音楽におけるデータベース

データベース消費論の要点を振り返っておこう。オタクたちの消費行動は、個々の物語(作品)ではなく、その構成要素であるキャラクターや設定の消費へと照準化されている。さらには、それらのキャラクターは個々の「萌え要素」に還元可能な、記号的に構成されたものであり……(P.153) (1)
「オリジナル」の物語作品から取り出されたキャラクターは、オタクたちによる二次創作の素材として用いられるが、「オリジナル」と二次創作との間には「オリジナル(元型)/コピー」の関係ではなく、データベースに集積された断片から構成される点で同等の地位にある二つのシミュラークル、という関係を持つ。オタク的な想像力は、個々の作品や作者の世界観に「人間的に」同意するのではなく、記号化されたキャラクターに動物的に反応する「キャラ萌え」(2)へと方向付けられている……(P.153)
この議論を、音楽について同型的に適用してみよう。一九七〇~八〇年代に発生し、九〇年代以降主流のポピュラー音楽の中に浮上した、ヒップホップやハウス、テクノといった新たなダンス音楽は楽器を演奏するミュージシャンよりも既存のレコードを「プレイする」DJの存在によって特徴づけられる。(PP.153-154)
DJにとって、個々のレコード音楽作品は二次的な創作のための素材にすぎない。「オリジナル」のレコード音楽に込められていた作品としての意味は解体され、個々の音楽的断片が重視される。これらの断片、新たな創作のための素材は、「ネタ stuff」と呼ばれ、DJたちは「優れた(レコード音楽)作品」ではなく、ネタとして「使う」ためにレコードを収集することになるだろう。彼らは文字通り、音響の断片のデータベースを作り上げていくことになる。(P154)
このようなDJ文化の実践は、確かに形式的にはオタク系文化のキャラクター志向の欲望とかなり一致する。個々の作品(音楽、物語)の全体性よりも、その構成要素(ブレイクや特定の音、キャラクターや設定)を単位にして消費=二次生産が行われ、二次創作が一次創作と同等の位置に立つ(オリジナル/コピーではなく、データベースに対するシミュラークルの関係になる)。さらに、両者は作品を完結した小世界(小さな物語)として受容するよりも、その構成要素に「動物的に」反応する。伊藤剛が指摘するように、「アニメ絵目」(キャラクターを構成する萌え要素の記号形式に敏感に反応する身体性)と「テクノ耳」(無機質な電子音響から快楽を汲み取る身体性)を類比的に捉えることもできるだろう(伊藤・二〇〇七:二五六)。しかし、DJ文化とオタク系文化のデータベース消費の間にある相違も無視することは出来ない。それは主に、音楽とマンガ・アニメ、それぞれのメディアの立ち位置の違いに起因するものだ。(PP.154-155)
まず、ブレイクビーツ(サンプリング素材として抜き出された楽曲の中の一部分)や特定の音色といった、DJ的な音楽実践で消費の単位となる音楽の断片は、マンガやアニメ、ゲームに登場するキャラクターよりも自律の度合いが低い。DJ的な想像力はあくまでも「別の曲」に組み入れたときの構成要素としてその音楽断片を消費するだろう(サンプリング素材のみを収録したCDを日常的に愛聴するユーザーは少数派であろう)。一方、キャラクターは作品に属することなく、それ単体で消費されることが可能な存在であり、記号論的により複雑な構造を持つ。(P.155)
この記号論的な相違は、おそらく両文化のデータベースと実践との間にある、創作労力の質の違いに関連している。東はキャラクターや設定のデータベースがあり、さらにそのキャラクターや設定を構成する諸要素もまたデータベース化しているとし、オタク系文化のデータベースにはそのような二重分節について言及している(東二〇〇一:七七)が、DJ的な音楽断片のデータベースにはそのような二重分節は存在しない。サンプリング音楽の実践において消費=再生産の単位となるのは表層的なサウンドのデッドコピー(機器を用いたサンプリング)であるのに対して、オタク系文化の二次創作におけるキャラクターは、単なるデッドコピーによっては再生産されない(3)。 オタク系文化の二次創作実践は、既存のマンガやアニメ作品の中に描かれた図像を元に、そこに必ずしも含まれるとは限らない属性を想像(あるいは集団的に創造)するかたちで、キャラクターに「別の生」を付加するだろう。他方で、DJの実践における消費単位、サンプリングされた音楽の断片は、キャラクターのような(属性を付与しうる)「厚み」を持たない即物的な音響である。両者は記号論的な地位と、それを再生産するための創作労力を異にする。(PP.155-156)
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