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修復例2:腰掛椅子(小)

修復例2:腰掛椅子(小)
このステップでは、イサム・ノグチがデザインした旧ノグチ・ルーム内の《腰掛椅子(小)》の修復処置(2007年)と、その修復を通して明らかになったことをご紹介します。

本作品は2006年にニューヨークのイサム・ノグチ庭園美術館から「デザイン――イサム・ノグチと剣持勇(Design: Isamu Noguchi and Isamu Kenmochi)」展への出品依頼を受けましたが、一部の家具に損傷がみられ、安全な状態で貸出を行うために調査の上修復を行いました。

修復工程

まず事前に作品の材料や寸法、状態に関して詳細な調査が行われました。この調査により、作品に使われている木材は塩地材(シオジ材)で、背もたれ部分に巻かれている縄はイグサ製の草縄であることがわかりました。座面敷物部分には籐(とう)が用いられています。作品には全体に汚れが付着しており、背もたれ側面の楕円木製部は大きく傷がついて一部欠損、背もたれの縄は一部破損しているという状態でした。作業は、表面のドライクリーニングを行った後、クエン酸5%の水溶液で汚れやしみの洗浄が進められました。木製部の欠損箇所には木材(欅材)が整形されました。ここで塩地材ではなく欅材が用いられたのは、塩地材が現在は入手が難しい素材となっているためです。縄についてはイグサ縄を調達し、素材の風合いをそろえるためイグサを日に晒し、さらに仕上げとして溶剤型アクリル絵具で色調が調整されました。

修復を通した発見

本修復を通して、作品に関して新たな発見がありました。それはまず使用されている素材についてです。上述のように今回の修復によって背もたれ部分の縄がイグサ製であること、そして腰掛椅子だけでなく家具や床などノグチ・ルーム全体に塩地材が用いられていることがわかりました。これらの素材はノグチ・ルームが制作された1950年代の日本では広く一般的に用いられていましたが、現在では入手しにくくなっています。素材だけでなく、敷物の編み込み細工など、ノグチの作品には1950年代の日本の家具制作に用いられていた技術が使われています。来日時、ノグチは制作の際に工芸指導所(1952年から産業工芸試験所と改称)から場所と材料を提供され、そこで試験所研究部第一課長だったデザイナー剣持勇(1912-1971)と深く交流したことが知られています。このように、1950年に来日したノグチが集中的に取り組んだノグチ・ルームには、当時の日本の家具制作にかかわる素材と技術がアーカイヴされているということもできるでしょう。

さらに、修復担当者による採寸調査によって、《腰掛椅子》の背もたれや座面部分が複雑な曲面をもち、《丸椅子》の脚は3本とも微妙に異なる形をしているなど、イサム・ノグチの家具は残された図面だけでは復元できない複雑な形状をもっていることもわかりました。

今回の詳細な調査と修復を通して、日本固有の素材と技術を生かしたイサム・ノグチのデザインの特徴がより明らかになったのです。

腰掛(平剛) イサム・ノグチ《腰掛椅子》(撮影:平剛) 背もたれ 背もたれ木製部分-修復前、欠損箇所の補修、修復後 ©️慶應義塾大学アート・センター クリーニング 籐製敷物の洗浄 ©️慶應義塾大学アート・センター 縄 背もたれ縄部分-修復前、補修途中、修復後 ©️慶應義塾大学アート・センター 全体 修復前、修復後 ©️慶應義塾大学アート・センター 記録1 腰掛(小)状態記録1 ©️慶應義塾大学アート・センター 画像を拡大して見る 記録2 腰掛(小)状態記録2 ©️慶應義塾大学アート・センター  画像を拡大して見る

参考文献

  • 剣持勇「工芸指導におけるイサム・ノグチ」『工芸ニュース』1950年10月号
  • 森仁史「工芸財団フィルム・アーカイブにおけるイサム・ノグチ――工芸指導所とノグチの創作活動」『慶應義塾大学アート・センター/ブックレット13  記憶としての建築空間――イサム・ノグチ/谷口吉郎/慶應義塾』慶應義塾大学アート・センター、2005年
  • 宮﨑安章(修復研究所21)「修復報告書(イサム・ノグチ 腰掛(小))」2007年6月
  • 渡部葉子(活動報告)「慶應義塾所蔵作品調査・保存活動 ノグチ・ルーム(萬來舎)関連の修復」『慶應義塾アート・センター年報』15号、2008年、65-69頁。
  • 渡部葉子「記憶から創造へ――ノグチ・ルームの修復を通して」『デジタルアーカイヴ――その継承と展開』慶應義塾大学デジタルアーカイヴ・リサーチセンター報告書(2006-2009)、2009年3月31日、181-186頁。

© Keio University
This article is from the free online

Invitation to Ex-Noguchi Room: Preservation and Utilization of Cultural Properties in Universities――旧ノグチ・ルームへの招待:大学における文化財の保存と活用

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