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大学と文化財

大学と文化財
比較的多くの文化財を保有する大学においても、それらが失われていくケースが目立ちます。なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか?

文化財を多く有する大学という環境

慶應義塾大学に限らず、大学には文化財が残されていることが多いのではないでしょうか。特に歴史のある大学はその傾向が強いのではないでしょうか。たとえば創立者の銅像を有する大学などは枚挙にいとまがありませんし、多くの方々は、キャンパス内の野外や校舎内に彫刻作品、絵画などが飾られているのを目にしたことがあると思います。

こうしたことの理由としては、実際には歴史の積み重ねだけでなく、一般社会の組織よりも利益の追求という姿勢が比較的抑制されているという点が挙げられるでしょう。たとえば建築物に関して言えば、キャンパスの敷地面積にある程度の余裕がある場合は、新しい施設が必要になっても別の場所に建設することができますし、文化財をキャンパス内で移築して保存することも可能です。また大学は教育機関であるため、「学生に対する教育的配慮」として、老朽化した建築物をリノベーションしたり保存したりする動機が(あくまで比較的ですが)より多く見られるのは事実です。

一方で、当然ながら大学でも文化財が破壊される例が後を立ちません。

大学による文化財の破壊

写真(予定):宇佐美圭司《きずな》
廃棄されてしまった宇佐美圭司の作品《きずな》

たとえば、2017年には、東京大学が保有していた宇佐美圭司の《きずな》が当局の判断で廃棄されるという「事件」が起きました。美術史を専門とする研究者も教鞭を執っている大学であるにもかかわらず生じたこうした出来事は、学生はおろか当局や教授陣においても学内の文化財に対する認識が不足していたということを示しています*。

同様の事例はどこの大学にも見られ、後のステップで見るように、慶應義塾大学でも実際に発生しています。では、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか?理由はさまざま考えられますが、もっとも大きなもののひとつは、当該文化財に対する認識が不足しているという点でしょう。昨今は大学に限らず、文化財の保存が声高に叫ばれている関係で、それなりの数の文化財(価値の有無はこの際不問として)が保存・修復の恩恵に与かっています。しかしそれが単純作業となり惰性でなされるのならば、いつしか文化財を扱っているという認識はなくなり、価値は人々の記憶から失われます。一度意味を喪失した文化財は、何かの都合で撤去の話が持ち上がったときにはそれに抗しうる論拠がなく、容易に破壊されてしまうことは膨大な事例が証明しています。

文化財の喪失を防ぐためには?

つまり文化財の真の保存には、文化財本体の劣化を防ぐというハード面と、その価値と意義を伝えるというソフト面の両面に目配りした保存活動が必要であり、保存・普及のバランスが重要になります。文化財を学内の出版物で紹介したり、定期的に見学ツアー(学内者、一般を問わず)を催したり、また学外に向けても発信していくなど、文化財を活用していくことを実際の保存・修復作業とともに実施していく必要があるのです。

こと歴史的建築物に関しては、この点ひときわ意味を持ってきます。というのも、建築物は使わなくなると急速に劣化が進むため、活用することが保存に直結するからです。一方で建築物の性質上、利用に際しては基本的に内部に入ることが前提となるため、損傷などの危険性が常に存在します。したがって建築物の保存においては、忘却と劣化を防ぐために活用を基軸としつつも、それによる劣化を招かないような細心の注意をもって扱わなければなりません。

皆さんの周りで文化財が失われた事例はありますか?もしあれば、ぜひコメント欄で紹介してください!

次のステップから、いよいよ慶應義塾大学での事例について見ていきます。三田キャンパスに芸術的価値の高い空間芸術が生まれた背景から破壊にいたる経過には、文化財の保存についてのヒントが隠されています。

© Keio University
This article is from the free online

Invitation to Ex-Noguchi Room: Preservation and Utilization of Cultural Properties in Universities――旧ノグチ・ルームへの招待:大学における文化財の保存と活用

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