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修復例1:床

修復例1:床
© Keio University

前回のステップで、「保存」と「修復」の関係について説明しました。

このステップでは、修復の専門家に依頼して行った旧ノグチ・ルームの床の修復作業(2008年)の処置内容と修復の記録について見ていきます。

本修復は、旧ノグチ・ルームの床部分のうち、木のフローリング部分に対して行われました。床は移築の際に粘着テープを直接床に貼り付けたことが想定され、保護ワックスが至る所で剥離している状態でした。この床に対しどのような方針で修復を行うか、調査しながら慎重に検討されました。

全体 前 床の修復前の状態 ©️慶應義塾大学アート・センター

ワックス剥落 旧ワックス除去前の状態 ©️慶應義塾大学アート・センター

調査

表面のワックスの剥落が広範囲に渡っていることから、まずワックスの除去が必要と判断され、ワックス層と床の間のどの面が本来の層であるかを探ることから作業が進められました。ワックスはアクリル製と木製の平板のスクレーパーを使って、薬剤を使わずに物理的に削り取っていきました。すると露出した本来の床材は他の家具類と同じ薄茶色の塩地(シオジ)材であることがわかりました。褐色の油性ワックスは、長年のメンテナンスのたびにおそらく教室で塗布していたものを旧ノグチ・ルームの室内に同じように施したものと想定され、床板本来の色が見えなくなっていたのです。さらに、床板が紛失した箇所には褐色に塗装されたオーク材や欅材の板が取り付けられていました。

修復工程

上記の状態に対し、新しい板が取り付けられていた箇所は、塗料で彩色された表面をヤスリで削り取り、周囲の色調に合わせてウレタン系のワニスで彩色を行いました。床に塗布されていた旧ワックスは、その一部を除去せずに残し、記録資料として参照できるようにしました。今回、本来の床材の色が薄茶色であったことがわかり、それによって黄土色の衝立や中央のコンクリート円柱下部にある黄土色のタイルと調和するようになったことから、今回の修復では、仕上げとして褐色ではなく床材の表面保護のための透明の油性ワックスを塗布するにとどめました。

削り 旧ワックスの除去途中 ©️慶應義塾大学アート・センター 彩色 旧塗装除去途中、彩色 ©️慶應義塾大学アート・センター ワックス塗布 表面保護ワックス塗布 ©️慶應義塾大学アート・センター 残し 記録のため、旧ワックスを一部残した ©️慶應義塾大学アート・センター 全体 後 修復後 ©️慶應義塾大学アート・センター

修復の記録

修復は処置を施して終わりではありません。修復作業の内容は写真や動画と共に詳細に記録され、報告書にまとめられます。この修復報告書は、その時点での作品の状態とそれに対する所見が記録された貴重な資料であり、その後の修復や保存に際して基盤となる資料です。修復によってより良い状態で作品を保存することが可能になるだけでなく、その記録の蓄積によって、対象の作品に関する重要な資料体が形成されていくのです。

参考文献

  • 渡部葉子「記憶から創造へ――ノグチ・ルームの修復を通して」『デジタルアーカイヴ――その継承と展開』慶應義塾大学デジタルアーカイヴ・リサーチセンター報告書(2006-2009)、2009年3月31日、181-186頁。
  • 渡部葉子(活動報告)「慶應義塾所蔵作品調査・保存活動 ノグチ・ルーム(萬來舎)関連の修復」『慶應義塾アート・センター年報』15号、2008年、65-69頁。
  • 宮﨑安章(修復研究所21)「修復報告書(萬來舎 床)」2008年5月
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This article is from the free online

Invitation to Ex-Noguchi Room: Preservation and Utilization of Cultural Properties in Universities――旧ノグチ・ルームへの招待:大学における文化財の保存と活用

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