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紙の材料

紙の材料

和紙の主な材料は植物です。ここまでのステップで、楮を原料とした小川町での製紙工程や細川紙の紙漉きを学んできましたが、楮以外にも和紙の材料があります。紙の元となる材料をビデオとテキストで解説します。

紙の原料となる植物

原料となる植物は地域によって異なります。同じ国の中でも共通品質の紙が作られると限られません。これは、製紙工程による違いがありますし、植生という自然環境が要因となり紙質に違いが生じる場合もあります。また原料は流通する場合もあります。紙は、その表面に記された文字や画像という情報だけではなく、製造された地域・環境・時代に関する情報も伝えているのです。

日本で紙の主原料となったのは、強靭で抵抗性が強い靭皮繊維をもつ植物です。代表的な植物を、使用例の古い順に挙げましょう。

苧麻(ちょま)

カラムシ(図1)と呼ばれるイラクサ科の多年草は、「真麻(まを)」ともいい、和歌に詠まれています。長い繊維から糸をつくり布に織り上げられます。紙の原料として用いる場合は切断します。

plant 図1 苧麻

楮(こうぞ)

最もよく知られているコウゾ(楮)(図2)はクワ科の低木で、主だった和紙は楮の樹皮を原料としています。770年に印刷された百万塔陀羅尼の紙にも使用されています。栽培が可能ですから、日本各地で楮を用いた紙が漉かれました。

plant 図2 楮

ガンピ(雁皮)

ガンピ(雁皮)(図3)はジンチョウゲ科の低木で、「斐紙」とよばれる美しい紙の原料となります。栽培が困難なため、紙も大変貴重です。雁皮を原料とした紙は、墨が裏面まで透過しないため、両面書写が可能となりますし、現在のトレーシングペーパーのようにも用いました。

plant 図3 雁皮

ミツマタ(三椏)

ミツマタ(三椏)(図4)もガンピと同様ジンチョウゲ科の木です。雁皮と異なる点は栽培可能であることです。紙質は雁皮に似ていますが、全く同一ではありません。 日本は国土の七割近くが森林なので、原料調達は他の地域より恵まれた環境であったということができますし、700年代から紙の製造方法や原料を改良・開発してきました。雁皮や三椏はその過程で発見され、日本独自の紙として使用された例といえます。

plant 図4 三椏

粘剤

主原料だけではなく、分散剤(dispersants)として添加される粘剤(ネリ)にもさまざまな植物が用いられています。

トロロアオイ

もっとも多く使用されるのはトロロアオイ(黄蜀葵)(図5)です。トロロアオイは根を水に浸して粘液を抽出します。分散力は低温の状態が最も効力を発揮しますので、トロロアオイを粘剤として用いる場合は冬季に紙を漉きます。俳句の季語で「紙漉き」が冬の季語となっているのはここに由来します。

plant 図5 トロロアオイ

ノリウツギ

ノリウツギ(糊空木)(図6)を使用する地域もあります。ノリウツギは、トロロアオイと比較すると分散力は劣りますが、温度変化に左右されることなく一年中使用することが可能です。

plant 図6 ノリウツギ

粘剤は地域によって「ノリ」と呼ばれています。和紙の製造に用いられる「ノリ」は、接着剤として用いられる「糊」と音が同じであるため、混乱を生じさせていますが、全く作用が異なります。粘剤は水中の植物繊維を分散させ、また、漉き上がった紙を重ねてもくっつかないという効果があります。粘剤は、次のステップで紹介する「流し漉き」という製造方法に欠かせない材料です。

調べてみよう!

あなたの国では、どんな植物から紙をつくってますか? 調査してコメント欄で共有してください。

This article is from the free online

古書から読み解く日本の文化: 和本を彩る和紙の世界

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