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巻子装となる作品とならない作品

巻子装となる作品とならない作品
© Keio University

第1週では、和本の装訂の種類と改装について学びました。そして装訂にはヒエラルキーがあり、巻子装が最も権威ある装訂であることを確認しました。このことに注目して、改めて巻子装の古写本を見渡すと、ある事実に気付かされます。それは、巻子装は保存される内容を選ぶらしいという事実です。

中国語と仮名

中国から巻子装の形で日本に伝わってきた作品は、当然の如く日本においても巻子装に保存されました。経典類や様々な漢籍の類です。日本の作品であっても漢文で書かれたものも基本的に同様です。問題は平仮名書の作品なのです。漢詩の影響を受けて文芸として成立した和歌は、天皇や天皇であった人物の命令で編纂された勅撰和歌集が、完成後の献上本を巻子装で仕立てるという慣例があったことが示すように、原則として巻子装に保存されました。

和歌(日本の伝統的な詩)

和歌から派生した連歌においても、勅撰集に倣って天皇の命による準勅撰の撰集が編纂されました。『菟玖波集(つくばしゅう)』と『新撰菟玖波集(しんせんつくばしゅう)』(図1)がそれです。

Shinsen Tsukuba-shū, 1 scroll 図 1. 新撰菟玖波集 一軸
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この巻子装(図1)は、成立間もない頃の古写本が複数現存する同作品にあっても、現存唯一の巻子装本であり、その筆者は献上本の清書を担当したのと同じ人物であることが判明しています。献上本を作製するための草稿であると考えられるもので、献上本の姿を考える上でも重要な存在なのです。

物語

これに対して物語作品は、史実を踏まえて書かれた歴史物語や軍記物語は巻子装に保存されましたが、創作の要素の強い作り物語や歌物語は原則的に巻子装に保存されることはなく、冊子本に保存されたのです(図2)。このことは、創作的な物語が当時は社会的な地位が低いものと考えられていたことを示すものと考えられます。これは文学作品としての完成度とは別な問題です。

Ise mnogotari, 1 booklet 図2. 伊勢物語(いせものがたり) 一帖
〔室町中期〕写・伝(でん)飛鳥井(あすかい)雅康(まさやす)筆
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絵入り本

ところが、創作の物語であっても巻子装で作られることがありました。それは挿絵がある場合です。これは絵も巻子装に保存されて中国から伝わってきたためであったと考えられます。挿絵のある巻子装本のことを今日「絵巻(えまき)」と呼んでいますが、日本は絵巻の国と言える程に、12世紀以降の絵巻が数多く現存しています(図3)。

Ise monogatari koemaki 図3. 伊勢物語(いせものがたり)小絵巻(こえまき)断簡(だんかん)〔江戸前期〕写
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This article is from the free online

古書から読み解く日本の文化: 和本の世界

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