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外国人職工の関わり

外国人職工の関わり
© Keio University

奈良の出版興隆は、畿内の周辺寺院にも波及していきます。

その中には平安新仏教の大寺も含まれていました。例えば 高野山では、建長 5年(1253)、 金剛峰寺の僧 快賢が、祖師空海の初作である 三教指帰を皮切りに、十住心論(fig.1)、 性霊集や、空海の信奉した大日経疏などを、立て続けに刊行しました(fig.2)。

Sutra Fig. 1. 秘密曼荼羅十住心論, 1254-9 詳しい書籍情報と高画質画像は特設サイトでご覧ください。
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wooden blcok Fig. 2.「秘蔵宝鑰」の木版/高野山宝物館(空海からのおくり物展図録)
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また、写本時代に仏教界の王座を占めた比叡山延暦寺では、長く出版を行っていませんでしたが、鎌倉時代後期に至り、僧承詮が出て、法華三大部およびその注疏記六種一五〇巻の出版を、弘安二年から永仁四年(1279〜96)の十八年間にわたる大事業の末に達成しました。(fig.3 はその中の1冊です。)

Sutra Fig. 3. 叡山版・止観輔行伝弘決 詳しい書籍情報と高画質画像は特設サイトでご覧ください。
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この叡山版法華三大部の刊行では、出版彫刻の際の原稿となる「版下」作成者二十八人の名が判明します。その中には「大宋人盧四郎」という、宋出身の帰朝者も含まれています。実はこの時期、中国では、徳祐二年(1276)に、南宋の首都臨安がモンゴル軍に攻め落とされ、宋朝の滅亡に向かっており、ことさらに「大宋人盧四郎」と名乗る盧氏は、宋からの亡命者であった可能性があります。同様の来航者としては、永仁五年(1297)作成の古文孝経の古写本に見える、宋銭塘呉三郎入道という人物が知られます。呉氏は京都の博士家周辺で、盛んに漢籍の筆写を行っています。このように、日本中世の書籍文化を尋ねると、来朝した外国人職工の関わった事例を見ることができます。

新興の宗派でも、例えば浄土宗の一門は、平安時代の浄土教以来の著作を、鎌倉時代前期からいち早く刊行しています(fig.4は今に残るその木版)。新しいメディアへの対応は、旧仏教よりも迅速かつ積極的に取り組まれ、承元四年(1210)には源信往生要集が刊行されたと伝えます。これは事実とすれば、日本人の著作を刊行した、最も早い事例に当たります。また 鎌倉時代末期の元亨元年(1321)には、浄土宗を大成した法然房源空の黒谷上人語灯録を出版していますが、これは日本語仮名交じり文の書籍出版として、最も早い事例です。

Biwa, instrument Fig. 4. 知恩院/選択本願念仏集
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様々な書籍の装訂

このように、鎌倉時代を中心とする中世前期には、奈良や畿内一円の大寺院で、継続して書籍の出版が行われるようになりました。その書目はやはり仏典の範囲内ですが、シンボルとしての経巻の複製から、宗門の教科書や祖師の著作を取り上げるように変わり、読みかつ学ぶための書籍とされたことが、各伝本に加えられた朱墨書入の様子からも一目瞭然です。

中世前期の版本を見ると、主要な経典は伝統的な巻子本(fig.5)か、それを一定の幅で交互に折り畳んだ形の、折本(fig.6)の体裁をしています。

scroll Fig. 5. 巻子装(かんすそう)

accordion Fig. 6. 折本 (おりほん)

しかし経典の注釈書や、経典に基づいて祖師達の展開した論述書は、後に主流となる冊子本の形ともされました。冊子本は元来、本経に対する副本や、当座の記録用に使われていました。それが、目当ての場所をすぐに開けられる機能性、携帯に適した利便性により、次第に書籍の典型となっていきます。この時代には、その萌芽を見ることができるわけですが、とくに見開き裏表の一紙ごとに、のどの部分に糊をさして紙を継いだ、粘葉装(fig.7)の版本が多く作られています。

decchoso Fig. 7. 粘葉装(でっちょうそう)

しかもそれらは、紙の表裏に文字があり、複雑な配置を行って、両面摺りとした形です。わざわざ両面摺りとした背景には、和様写刻の文字と相俟ち、両面に書写された冊子写本の再現という意図が見てとれます。総じて平安時代以来、中世前期までの日本の版本は、写本の摸造を目指したものだったと捉えることができます。この情況を変えたのは、鎌倉時代末期に勃興した、禅宗寺院の出版でした。

ここで説明した装訂や、和本の紙、絵入り本等に関して詳しく学びたいかたは、慶應義塾大学のもう一つのFutureLearn コースである「古書で読み解く日本の文化」(Japanese Culture Through Rare Books )で詳しく解説していますので、ぜひ受講してみてください。 /courses/japanese-rare-books-culture/

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This article is from the free online

古書から読み解く日本の文化: 漢籍の受容

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