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古文辞派の漢詩作品

古文辞派の漢詩作品
© Keio University

古文辞派の漢詩とはどんなものなのか、服部南郭の有名な作品を読んでみましょう。

Old Book 図1 Fig.1 『南郭先生文集』享保12年(1727)刊行
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『南郭先生文集』初編~四編各10巻(fig.1)は、享保12年(1727)に刊行された初編の巻5に収められた「夜下墨水(夜、墨水を下る)」です。墨水(ぼくすい)は、隅田川を中国風に呼んだもの。夜、舟に乗って隅田川を下流へと移動していくときの風景を詠んだ詩です。

「夜下墨水(夜、墨水を下る)」

原文 読み下し文
金龍山畔江月浮 金龍山畔(きんりゅうさんぱん) 江月(こうげつ) 浮かぶ
江揺月湧金龍流 江 揺らぎ 月 湧きて 金龍 流る
扁舟不住天如水 扁舟(へんしゅう)住(とど)まらず 天 水の如(ごと)し
両岸秋風下二州 両岸の秋風 二州(じしゅう)を下る

現代語訳

金龍山浅草寺の名を取って金龍山と称する待乳山(まつちやま)の横を流れる隅田川に月が映る。水面が揺れると月の光が湧き上がって、まるで金の龍が水の底から躍り出てきたかのようだ。私が乗った小舟は水の流れに乗って停滞することなく、はるか先方を見やれば、どこまでが空でどこまでが水面か、一つに溶け合って区別が付かなくなる。両岸を吹き渡る秋風のなか、ここ武蔵と下総の国境を下っていく。

解説

秋の美しい月光のもと、涼しい風に吹かれながら快適なクルーズを楽しむ様子が伝わってきます。

ここで注意したいのは、『唐詩選』に収める詩の表現を利用していることです。趙嘏「江楼書感」の「月光如水水連天」(月光水の如し水天に連なる)、李白「早発白帝城」の「両岸猿声啼不住、軽舟已過万重山」(両岸の猿声啼きて住まらざるに、軽舟已に過ぐ万重の山)あるいは「峨眉山歌」の「思君不見下渝州」(君を思えども見えず渝州を下る)、といった表現を巧みに組み合わせています。

唐の詩人たちが長江のような大河を舞台に、雄大なスケールで詠んだ詩を、身近な隅田川に置き換えて詠むことによって、時間と空間を飛び越えて、李白と南郭は一体化します。

詩という架空の文学世界のなかで、南郭は李白という配役を演じる俳優であり、その舞台は、18世紀、ようやく都市らしくなってきた江戸でした。このような、江戸の各地を舞台にして、それを中国の雄大な風景に擬えた詩を南郭は多く作っています。18世紀後半になると、経済も文化も成熟して、京都や大坂を上回る繁栄を見せ、「江戸っ子」の美意識も育ってきますが、その根源にこのような漢詩作品の流行があったと言えるでしょう。

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古書から読み解く日本の文化: 漢籍の受容

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