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禅宗寺院における漢籍受容の特徴

禅宗寺院における漢籍受容の特徴
中世の禅宗寺院における漢籍の受容、ということを考える場合、まずは中国から漢籍を輸入し、それを読む、というのが出発点でしょう。

輸入された漢籍(唐本と呼びます)は数が限られます。多くの寺院、多くの禅僧に行き渡らせるためには、それを複製することが必要です。そこで、日本人による漢籍の写本や版本が作られます。   日本には漢文訓読という、漢文の読解方法の長い伝統があります。Week2において、貴族の学者たちの漢文訓読について学んだと思いますが、禅僧たちは、より簡略化された訓読を行いました。彼らが用いた版本・写本には、訓読のための記号やカナ文字が記入されています(以下の画像を参照)。

Kobunshinpo-Koshu 古文真宝後集』五山版
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書籍情報と高品質画像は特設サイトでご覧ください。

内容の読解のためには、もともと漢籍に備わっている注釈を参考にしつつ、独自の注釈を編み出していきます。漢文の表現は、先行する古典の表現を踏まえて作られるので、その古典(典故)を探しだして指摘する必要があります。そのためには、たくさんの参考書が必要ですが、既に中国において、辞書や類書(百科事典)が出版されていますので、それらを参考に出来ます。

その上で、日本語として理解するための翻訳を行います。禅僧の注釈は、先生が弟子に教える講義の記録として作られるものが多いため、口語的な表現でわかりやすく記されています。

このような一連の流れを見ると、注釈の対象となる中心的なテクストの周辺に、注釈の参考となるテクストが存在し、周辺テクストの必要部分を抽出して中心テクストに付加していく、というテクストの移動が行われるのが第一段階、次にそれに基づいて日本語テクストが作成されていくのが第二段階、最終的に、それらが混在するテクストが注釈書として生成されるのです。

一方、禅僧たちは、修行の一環として、また文人趣味の一つとして、折々に漢詩文を制作しました。日本において、最新の中国文化を身に付けているエリート集団として、将軍・大名らの武士、天皇・貴族たち、裕福な商人などから、その作品が求められることも多くありました。

そのような創作の準備として、日頃から中国の古典作品を読んで、創作に使えそうな表現を抜き書きし、分類するという作業を行います。自家製の類書を作っておくのです。これを詩作品の単位で行えば、自家製の詩集ができます。

先に述べた注釈作業と、このような類書の制作とは、既存のテクストを解体し、何かの目的に従って再編する、という点で共通したものです。

このようにして、禅宗寺院においては、漢籍からさまざまな書物が生まれていきました。

続くStep3.3から3.6では、中国から輸入された漢籍と、禅僧たちによるそれら漢籍の利用について詳しく見ていきます。さらに、Step3.7から3.10では、禅僧たちの手によって創作された様々な漢籍について、実際の書物を見ながら見ていきましょう。

© Keio University
This article is from the free online

古書から読み解く日本の文化: 漢籍の受容

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