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オタクと二次創作

Excerpt from Hiroki Azuma Otaku: Japan's Database Animals.
© Keio University

「二次創作」とは何かについて簡単に説明しましたので、歴史的および理論的関係でのこの実践行為について考察していきます。では、ポストモダニズムの概念にそれがどのように関わっているのか、そしてこれは過去の文化的実践とはどのように違うのでしょうか?

次の一節は、東浩紀の 『オタク:日本のデータベース・アニマルズ』(University of Minnesota Press, 2009)、日本では当初 『動物化するポストモダニズム:オタクから見た日本社会』(講談社、2001)からの抜萃です。

東浩紀は、日本文学界における同世代の有数の評論家です。彼は後に、1998 年に、 『Sonzaironteki, Yubinteki (存在論的、郵便的)』 として後に公開され、有名な サントリー学芸賞を受賞した、Jacques Derrida の作品に関する論文を書きました。東は、日本におけるオタク文化とポストモダニズムとの間の関係を取り扱っていました。「萌え要素」という用語を紹介して、彼は、ファン・カルチャーの「二次創作」を日本におけるポストモダニズムの基本的な実践と見なしています。

1.オタクとポストモダニティ

この特徴がポストモダン的だと考えられているのは、オタクたちの二次創作への高い評価が、フランスの社会学者、ジャン・ボードリヤールが予見した文化産業の未来にきわめて近いからである。ボードリヤールはポストモダンの社会では、作品や商品のオジリナルとコピーの区別が弱くなり、そのどちらでもない「シミュラークル」という中間形態が支配的になると予測していた。原作もパロディもともに等価値で消費するオタクたちの価値判断は、確かにオリジナルもコピーもない、シミュラークルのレベルで働いているように思われる。(PP.40-41)

2.萌えの要素

この傾向を理解するうえでもっとも重要な例は、一九九八年に誕生した「デ・ジ・キャラット」、通称「でじこ」と呼ばれるキャラクターである[Fig 4]。このキャラクターはもともと、アニメゲーム系関連商品を取り扱う販売業者のイメージキャラクターとして作られた。したがってその背景にはいかなる物語も存在しない。それが九八年の後半より徐々に人気を集め、九九年にTVCMでブレイクし、二〇〇〇年にはアニメ化やノベライズもされ、いまでは確固たる作品世界を備えている。(PP.63-64)
Di Gi Charat. Fig. 4. 「デ・ジ・キャラット」 画像を拡大して見る
What is noteworthy in this process is that the stories and settings that form its world were created collectively and anonymously as a response to the market, after the character design of Digiko alone gained support. たとえばこの作品には「うさだヒカル」と「プチ・キャラット」(通称「ぷちこ」)と呼ばれるキャラクターが存在するが(図5)、それらは九九年にようやく発表されたものであり、前者は名前すら公募で決定されている。また、いまではでじこには「生意気でうかつ」という性格が加えられているが、この設定も最初から用意されていたものではなく、アニメ化に際して半ば自己パロディ的に付け加えられたものだ。
しかも『エヴァンゲリオン』とは異なり、これらの展開は特定の作家や制作会社が制御しているものではない。というのもこの作品は、基本的には一企業の宣伝企画にすぎないからである。このような状況においては、『デ・ジ・キャラット』のオリジナルがどのような作品で、その作者がだれで、そこにどのようなメッセージが込められているかを問うことは、まったく意味をなさない。この企画は最初から断片の力を基本として動いているのであり、そこでは、従来ならば「作品」として独立して語られるアニメやノベルのような企画も、マグカップやクリアファイルと同じ関連商品のひとつでしかない。物語はここでは、もはや設定やイラスト(非物語)に添え物として寄せられる余剰品にすぎないのだ。(PP.64-65)
しかもそれだけではない。『デ・ジ・キャラット』でもうひとつ興味深いのは、前述した物語やメッセージの不在を補うかのように、そこにキャラ萌えを触発する技法が過剰に発達している点である。筆者はさきほど、でじこのデザインがまず単独で支持を集めたと記した。では、それが特に個性的で魅力的なものかといえば、そう指摘するのも難しい。実際にはでじこのデザインは、デザイナーの作家性を排するかのように、近年のオタク系文化で有力な要素をサンプリングし、組み合わせることで作られている。その代表的なものを明示すれば、Fig.6のようになるだろう。
Moe-elements that constitute Di Gi Charat.. Fig. 6. 「デ・ジ・キャラット」における萌え要素 画像を拡大して見る
ここで各要素の性質について述べる余裕はないが、これらの要素が、それぞれの特定の起源と背景を持ち、消費者の関心を触発するため独特の発展を遂げたジャンル的な存在であることには注意してほしい。それは単なるフェティシュと異なり、市場原理のなかで浮上してきた記号である。たとえば「メイド服」は、八〇年代後半のアダルトアニメ『くりぃむレモン・黒猫館』を起源とし、九〇年代に入ってノベルゲームを中心に勢力を広げてきたことが知られている。また「触覚のように刎ねた髪」は、筆者の観察では、九〇年代の半ば、ノベルゲームの『痕』(きずあと)で現れたことから一般化し[Fig.7]、現在では多くのアニメやゲームで見られるデフォルトの要素に成長している。消費者の萌えを効率よく刺激するために発達したこれらの記号を、本書では、以下「萌え要素」と呼ぶことにしよう。萌え要素のほとんどはグラフィカルなものだが、ほかにも、特定の口癖、設定、物語の類型的な展開、あるいはフィギアの特定の曲線など、ジャンルに応じてさまざまなものが萌え要素になっている。(PP.66-67)
Moe-elements that constitute Di Gi Charat.. Fig. 7. 『痕』における萌え要素としての「触角のようにはねた髪」(制作:Leaf) 画像を拡大して見る

3. シミュラークルとデータベース――オリジナル対コピーからデータベース対シミュラークルへ

オタク系文化は二次創作に満たされている。そこでは、原作も二次創作も、あたかも「同等の価値」を持つかのように生産され、消費されている。しかし、それら二次創作のすべてが同じ価値であるわけではない。それでは、市場は育たない。実際にはそれらシミュラークルの下に、良いシミュラークルと悪いシミュラークルを選別する装置=データベースがあり、つねに二次創作の流れを制御しているのだ。(中略)そのような手続きを経ず、単に無趣味に作られたシミュラークルは、市場で淘汰され、消えゆくのみである。
これは言い換えれば、ポストモダンにおいて、旧来のオリジナルとコピーの対立の替わりに、シミュラークルとデータベースという新たな対立が台頭してきたことを意味している。従来では原作がオリジナルで、二次創作がコピーだった。作品の優劣の基準はそこにしかなかった。(PP.87-88)
© Keio University
This article is from the free online

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