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「旧」ノグチ・ルームの意義

「旧」ノグチ・ルームの意義

ノグチ・ルームと、移設後の旧ノグチ・ルームでは、実際にどのような違いがあるのでしょうか。まずはビデオで旧ノグチ・ルームを詳しく見てみましょう。

旧ノグチ・ルームに現在設置されている白い半透明の幕は、動画内での説明の通り、かつてのノグチ・ルームの内部空間を示唆するものでしかありません。壁のような実際の躯体との存在感の差は大きく、空間ないの印象は全く違うものになっています。また暖炉の上を見上げるとかつての天井はすでになく、かつての天井板だけが2階の天井に貼り付けられる奇妙な姿を残しています。壁などがなくとも、ノグチのデザインした一連の家具などがあるのだから悲観するほどのことはないのではないか、という意見もあるかもしれません。しかし、再現を目的としない移設により失われたのは元の空間構成のような物理的な物だけではありませんでした。

移設自体が地理的文脈、総合芸術としての文脈を剥奪する行為であるということはお話ししましたが、この内部改変により、空間内の統一性もまた毀損されてしまいました。現在の旧ノグチ・ルームは、かつて谷口とノグチが目指した建築物と彫刻、庭園の相互連関による総合芸術という価値を完全に失っています。現在は唯一この《無》だけが近くに置かれていますが、移築前の写真と比較すると、位置や角度が微妙に異なっていることがわかります。ですのでこれは旧状の再現ではなく、やはりあくまで当時を偲ばせるよすがとして受け取らなければなりません。

無の位置関係 室内から見ると《無》と建築物の位置関係が変わっていることがわかる

こうしたことを考えると、ある程度壁面の構成をなぞっているとはいえ、現在の状態ではかつてノグチ・ルームがもっていた意味の諸相が何重にも破壊されていることに気づくでしょう。もちろん隈によるこうした変更は、そのままの形で移設することをノグチ財団が拒んだ苦渋の選択であったでしょう。一方で、現状が極めて不十分な移設であることもまた確かです。

旧ノグチ・ルームとなり、文化財としての価値は大きく損なわれてしまったといわざるを得ませんが、それでもノグチのデザインした空間の一部や家具、谷口の設計した建築物の一部が残されていることを幸運と捉え、このような形で残された以上、これを教訓として、同じようなことが起きないように認識を新たにさせてくれるモニュメントとすることが必要です。その意味で、この部屋は新たな意味を獲得したのです。

白い膜に関する隈研吾の回想

「私は一枚の半透明の幕を提案した。夢の中で過去という時間が白い霧の中に霞んで見える状態を作りたかったのである。かつての新萬來舎の間仕切り、2階床スラブをこの膜に置換するのである。それによって、復元された「新萬来舎」の建築エレメント(壁、開口、庭園)は全てフィルター越しの白濁した風景として感知される。それは現実/記憶/映像」の中間的な存在として宙づりにされた風景といってよいだろう。」
鷲見洋一「『萬來舎問題』をめぐる若干の考察」『慶應義塾大学アート・センター年報10』2003年、p. 9。
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Invitation to Ex-Noguchi Room: Preservation and Utilization of Cultural Properties in Universities――旧ノグチ・ルームへの招待:大学における文化財の保存と活用

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