建築プロムナード　――自由参加型建築見学会の試み（建築プロムナード）

このステップでは、学内の建築見学イベントについてご紹介します。この見学会では、参加時間に幅をもたせ、配布物を工夫することで、ガイド・ツアー以外の建築見学イベントの在り方を探りました。結果として学内と学外の人々に広く大学建築を体験してもらう機会となった本事例の概要をご紹介します。

慶應義塾大学アート・センターは2015年より、学内の建築見学イベント「慶應義塾三田キャンパス建築プロムナード――建築特別公開日」を企画し、毎年継続的に実施しています。このイベントは、普段非公開となっているキャンパス内の建築を公開し、学生や教職員に学内建築について親しんでもらうことで、建築リテラシーの向上をはかることをねらいとして企画されました。同時に、学外の一般の参加者も受け入れました。

公開対象とした学内の建築は、演説館、旧ノグチ・ルーム、塾監局、図書館旧館、第一校舎、図書館新館、大学院校舎です。事務室や教室など、見学会当日も実際に使用されている建物もあったため、それらの建築については外部のみの見学としました。

アート・センターではこれまでガイド・ツアー形式による学内建築見学会を行ってきました。ガイド・ツアーも好評でしたが、この形式は参加人数が限られるため、事前申し込み制とするのはやむを得ず、建築にすでに一定の関心を持っている人々が申し込むことがもっぱらでした。まだ積極的な関心を持っていない人々は、申し込みの作業がハードルとなり、参加自体を見送ってしまうケースもあります。そこで今回は、偶発的な関心を実際の見学に結び付けることを念頭に、ある程度幅のある日程・時間の中で、各々が個人のペースで自由に能動的に建築を見学する機会となるようプログラムを組みました。用意したのは、各建築の写真および解説付のシートと、建築と構内で見ることのできる美術作品の場所を示した「三田キャンパス建築マップ」、そして解説がダウンロードできるアプリです。

また、参加者の反応を詳細に知ることができるよう、下記の２点をアンケートの設問に加えました。

・建築は、そこで過ごした（過ごしている）人々にとり、記憶の重要な「よすが」となる場合があります。そのことについてあなたのお考えをお聞かせください。
・失われてゆく建築物の保存、復元について、ご意見をお聞かせください

開催初年度以来、毎年約400名ほどの参加があり、参加者は時間をかけてマップを活用しながら、アンケートにも向き合う様子が見受けられました。参加者からは「たまたま個人で訪れたら、この企画にまぎれこんだ」、「大学内にこうした建築空間があることは素晴らしいことであると思う」、「建築はその人の心のよりどころとなる空間芸術であると思う」といった声が寄せられました。

この見学会は、キャンパス内の建築を訪れる貴重な機会を提供し、また参加者のガイドとなる解説マップを用意することで、自由かつ自発的な参加を促しました。このような取り組みを単発で終わらせず、継続的に実施することで、建築文化財の認知が広まっていくのではないでしょうか。

^{建築プロムナード実施風景（撮影：井上悟） プロムナードマップ　©️慶應義塾大学アート・センター画像を拡大して見る}

参考文献

• 本間友、森山緑「慶應義塾三田キャンパス　建築プロムナード――建築特別公開日」『科学研究費補助金基盤研究（A）「大学における「アート・リソース」の活用に関する総合的研究」平成27年度報告書　ユニヴァーシティー・アート・リソース研究Ⅰ』2016年3月、72-80頁。
• 本間友、新倉慎右「報告１　大学建築を開く：「転位する部屋」と「慶應義塾建築プロムナード」」『科学研究費補助金基盤研究（A）「大学における「アート・リソース」の活用に関する総合的研究」平成28年度報告書　ユニヴァーシティー・アート・リソース研究Ⅱ』2017年3月、95-98頁。
• 渡部葉子、本間友、森山緑「慶應義塾大学班　平成29年度活動報告」『科学研究費補助金基盤研究（A）「大学における「アート・リソース」の活用に関する総合的研究」平成29年度報告書、46-53頁。