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保存と修復について

保存と修復について
実際の修復事例を見る前に、まず「修復」と「保存」の定義について確認しておきましょう。

「修復」とは、専門的な保存技術により、作品の損傷を補修して元の状態に戻す過程のことを指します。そして「保存」とは、作品が劣化しないような方法で収納し、展示し、取り扱い、維持することを指します。資料の状態調査、点検、作品がおかれている環境の管理などが保存の基本となります。したがって適切な保存が、より大がかりな修復作業の必要を減らすことにつながります。この保存と修復の考え方はどの文化財にも共通するものですが、作品の管理方法や保存・修復処置方法は作品によってさまざまです。

たとえば、慶應義塾大学のキャンパス内には屋外に多くの彫刻が設置されています。この屋外彫刻については、二年に一度の頻度で状態を観察し、表面の汚れの洗浄を行っています。ブロンズ作品については、保護剤の塗布および光沢調整を行い、次のメンテナンスまで良好な撥水性が保たれるような保存処置を施しています。

無 洗浄 イサム・ノグチ《無》洗浄 ©️慶應義塾大学アート・センター 青年 ワックス 菊池一雄《青年》ワックス塗布 ©️慶應義塾大学アート・センター

また、伝ウィリアム・ハイネの《ペリー提督黒船陸戦隊訓練の図》は、学内の美術作品調査によって改めてその存在が確認された作品の一つですが、本作は作品の色調や描かれているモチーフが見えづらいほど、全体に塵や埃が堆積していました。そのため、画面の清掃と洗浄、しみが除去しきれなかった部分には補彩を行うなどの修復処置を行いました。

ハイネ前後 伝ハイネ《ペリー提督黒船陸戦隊訓練の図》修復前、修復後 ©️慶應義塾大学アート・センター

ハイネ途中 洗浄途中 ©️慶應義塾大学アート・センター

旧ノグチ・ルームの場合

それでは旧ノグチ・ルームの場合はどうでしょうか。旧ノグチ・ルームは建築空間であり、椅子や机などの家具を備えています。使うことを意図して作られたこれらの家具や空間は、全く使用されないと劣化が早まるという面があります。それは人が内部に入り触ることで、乾燥から守られ、適度に風通しが行われるといったことがあるからです。これは他の文化財とは性質を異にする点です。一方で、人が内部に入ることによる損傷の危険性もあります。そのため建築空間はとりわけ保存と活用のバランスをとりながら守っていくことが求められるのです。

旧ノグチ・ルームは、実際、利用者の不注意によって家具や内装に損傷が発生したことがありました。また、第二研究室解体に伴い一部移築した際の作業時の破損や、地上階から地上3階のルーフテラスへと立地環境が変化したことで太陽光の影響をより強く受け、作品の劣化につながるなどの問題も見られました。

これらの損傷に対し、作品の劣化の進行を抑え、価値を損なわないようにするために修復処置を行いました。そしてその後良い状態を維持できるよう、日常の管理方法を見直し、定期的な保存処置を継続しています。続くステップでは、旧ノグチ・ルームの床と腰掛椅子の修復作業と、私たちが現在定期的に行っている保存処置の様子をご覧いただきます。

© Keio University
This article is from the free online

Invitation to Ex-Noguchi Room: Preservation and Utilization of Cultural Properties in Universities――旧ノグチ・ルームへの招待:大学における文化財の保存と活用

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