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紙の定義

紙の定義
© Keio University

日本における書物の歴史的特徴として、ごく初期から紙という材料を用いていることが挙げられます。

他の地域では、粘土板やパピルス、そして竹や木を細長く切った形態に文字を書いた竹簡・木簡、あるいは羊皮紙など、紙が普及する以前から文字や画像を記録する媒体がありました。日本にも簡に記された記録は残っていますが、国家が形成された時点で恐らく既に紙と出逢っていたということは、それ以前の書写材料を使用した経験に基づくこだわりや習慣がなかったわけです。日本における紙の多様性を考える場合、こうした歴史的事実を看過することはできません。

最初に「紙とは何か」ということ、その定義を確認してみます。紙の起源は中国です。中国の自然科学者・潘吉星は、紙を以下のように定義しています。

植物繊維の原料を人工的な器具や化学的な作用で純粋にし、分散している繊維を水と一緒にして、紙料液をつくり、水の漏れる簀で水を濾し、セルロースが簀の上で交織するようにし、湿った紙の膜をつくる。さらに乾燥した後、一定の強度をもつセルロースが水素結合で互いに結びついて薄片をつくり、書写・印刷・包装などの用途に用いられる物質である。[1]

ポイントは、「植物繊維」「水素結合」です。植物の主成分であるセルロースという繊維状の物質が、水素結合により薄い膜、シートを形成している状態を「紙」と定義することができます。植物という生命体を構成する繊維を、塊ではなく、できる限り一本ずつに近い状態にすること。その繊維を水中に分散させて、水素結合という作用を生じさせること。紙をつくる上で、この2点が欠かせません。繊維と繊維は接着剤ではなく、化学結合により分離しない状態になります。

この定義に照らし合わせると、paperの語源となったパピルスという書写材料は「紙」とはいえません。エジプトで作成された、「死者の書」が書かれていることで有名なパピルスは、植物の茎そのものを加工してシート状に成形しています。茎と茎の発酵によって接着していて、水素結合は作用していません。

漢字由来の字義・音義と日本語の読み

和紙の名称は非常にたくさんあります。日本では同一の漢字に対して複数の読み方をします。大別して、中国語の発音に近い音読みと、漢字の持つ意味をもともとあった日本語に置き換えた訓読みがあります。
「紙」という漢字を音読みではshiあるいはzhiと発音します。zhiは現在の中国語の「紙」という発音と同じです。訓読みでは「カミ(kami)」あるいは「ガミ(gami)」と発音します。訓読みの語源は竹簡や木簡の「簡 kan」に由来するという説があります。パピルスがpaperの語源となったように、文字を記録する媒体として、古い形態の呼び名が残っていると考えられます。

竹簡について興味のある方へ

本コースと同じ古書シリーズの 「古書から読み解く日本の文化: 漢籍の受容 (SINO-JAPANESE INTERACTIONS THROUGH RARE BOOKS)」コースでは、中国の古い竹簡を紹介しています。興味のある方はぜひ合わせて受講してみてください。

参考文献

[1] (Japanese edition) 潘吉星著 佐藤武敏訳 『中国造紙技術史稿』 平凡社 1980/ (Chinese edition) 潘吉星 『中国造纸技术史稿』 文物出版社 1979

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This article is from the free online

古書から読み解く日本の文化: 和本を彩る和紙の世界

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