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漢字の伝来と仮名の成立

漢字の伝来と仮名の成立
© Keio University

日本は固有の文字をもたない国でした。従って中国の文字である漢字を輸入して用いたのですが、その用い方はやや特殊でした。外国人が日本語を学ぶ際の障害となることですが、日本では漢字に複数の読み方があるのです。まず大きく二つの読み方があります。中国語の発音に由来する「音(オン)」と、表意文字である漢字の意味に該当する古い日本語(大和言葉)を読みとしてあてた「訓(クン)」です。

そればかりではなく「音」には複数の種類があることも珍しくありません。これは、中国における漢字の発音が時代や地域で異なることに由来するもので、古い時代に仏教などの知識と共に伝わった「呉音(ごおん)」、7、8世紀に多くの留学生などを通して伝わった唐の都長安の発音である「漢音(かんおん)」、13世紀以降に伝わった「唐音(とうおん)」などの種類があるからです。仏教用語には呉音が多く、法律用語には漢音が多いなど、漢字の音は特定の知識や意味と結びついているために、一つの発音に纏められることなく同時並行的に用い続けられたのでした。

例えば、「経」という字は、呉音が「キョウ」、漢音が「ケイ」、唐音が「キン」、「行」という字は、呉音が「ギョウ」、漢音が「コウ」、唐音が「アン」といった具合です。

日本には固有の文字がなかったので、文字で記録するためには漢字を用いるしかありませんでした。日本に関することも中国語に翻訳して記していたのですが、日本語をそのままの形で記録したくなるのも無理からぬことでした。

Divine-age Chapters, Nihon Shoki 図1. 漢字を用いた日本文献 日本書紀神代巻(にほんしょきじんだいかん)
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そこで用いられたのが、漢字「音」と「訓」の両方を利用して、日本語を表記することでした。8世紀頃の歌集である『万葉集』がこの方法で記されているため、このような利用のされ方をした漢字を「万葉仮名(まんようがな)」と呼びます。

Man’yōgana, Man’yōshū 図2. 万葉仮名の例 万葉集巻十九
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この表記法は、漢字の意味を基本的に無視して、表音文字として音と訓を混用しつつ、時に表意文字としても用いることも行うものでした。

『万葉集』収載歌の成立時期の下限に近い、同集の編者ともされる大伴家持(おおとものやかもち)の巻十九所収歌を例示してみましょう。

和我屋度能 伊佐左村竹 布久風能 於等能可蘇気伎 許能由布敝可母

これは、「わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとのかそけき このゆふへかも」と読むことができます。基本的に一字一音で表記していますが、「村竹」と「風」で訓を併用しています。

こうして日本人はなんとか日本語を記録することができるようになったのです。しかしながら、日本語の性質上から漢文に比してどうしても文字数が多くなってしまいますし、表音文字として用いるには漢字は複雑すぎますので、書くのにも読むのにも時間がかかるという大きな欠点がありました。そこでより簡略な表音文字として開発されたのが、「平仮名」と「片仮名」です。

「平仮名」は漢字の筆記体をより簡略にする形で生まれたもので、漢字「安」から平仮名「あ」が、「以」から「い」が、「宇」から「う」が、「衣」から「え」が、「於」から「お」が生まれたといった具合です。一方「片仮名」は漢字の部首などの一部を独立させたもので、漢字「阿」の偏が「ア」に、「伊」の偏が「イ」に、「宇」の冠が「ウ」に、「江」の旁が「エ」に、「於」の偏が「オ」になったという具合です。どちらも簡略な表記を目指した表音文字であることは、元になった漢字である「字母(じぼ)」と比較してみれば明らかでしょう。

平仮名一覧表 Hiragana chart

片仮名一覧表 Katakana chart

この仮名でもやっかいなのは、同じ発音をする文字が複数存在することです。使用された文字や数については時代による変遷がありますが、殊に平仮名では近世以前には複数が併用されるのが普通でした。1900年に法令によって学校教育で用いられる平仮名が一種に限定され、それが今日でも用いられているのですが、そこに含まれなかったものを「変体仮名(へんたいがな)」と呼んでいます。古い平仮名書きの書物を読むためには、この変体仮名を読めるようになる必要があるのです。ごく最近になって、変態仮名を読む能力を身につけるためのスマートフォン用のアプリケーションも複数発表されています(UCLAと早稲田のアプリ「変体仮名あぷり」、大阪大学のアプリ「KuLA(iOSAndroid)」)ので、この様なものを用いて訓練するとよいでしょう。

さてその「仮名」という名称ですが、「名」とは文字のことであり、仮名は仮の文字という意味です。「平仮名」の「平」は簡単な、「片仮名」の「片」は不完全なということです。こうした呼称が成立したことにより、漢字は正式な文字ということで、日本では「真名(まな)」とも呼ばれるようにもなったのです。

「平仮名」は「女手(おんなで)」と呼ばれることもあったように、男性が「男手(おとこで)」即ち漢字を用いるのに対し、当初は主に女性が用いるものであったと考えられています。承平5年(935)頃に男性の紀貫之(きのつらゆき)が、任地である土佐(現在の高知県)から京の都への帰還の旅の様子を日記形式で記した『土佐日記(とさにっき)』は、貫之に仕える女性の立場で平仮名によって書かれており、平仮名と女性の関係の深さを象徴する事例としても良く知られています。

平仮名が普及するにつれて、和歌は万葉仮名ではなく平仮名で書かれるのが普通になっていきました。和歌は天皇を中心とする宮廷社会において、社交や意志の疎通のために必要な道具となっていましたので、男性貴族たちも、当然のごとく平仮名を利用するようになりました。しかしながら、公式な文書や男性の日記は近代に到るまであくまでも漢文で記すものであり続けたので、普及したとはいえ、漢字の方が格の高い文字であることは不変であったのです。

一方「片仮名」は漢文を日本語として読む為の補助的なものとして発明されましたので、伝統的にその使用もほぼ男性や僧侶に限られていました。また基本的に正式な文書や書物を片仮名のみで記すことはありませんでしたので、使用例も平仮名に比べると少ないのです。希に片仮名で記された和歌や物語の写本が存在していますが、それらの多くは僧侶の書写である可能性が高いと言えるでしょう。

Kokinwakashū jo-chū 図3. 片仮名の例 〔古今和歌集序注〕
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平仮名は9世紀後半ころ、片仮名は9世紀初めころには成立していたと考えられますので、平安時代の9世紀末頃には日本では漢字・平仮名・片仮名の3種類の文字が存在していたことになります。この2種の仮名は単独で用いられることもありましたが、漢字と一緒に用いられるのが一般的でした。

Kokinwakashū jo-chū 図4. 平仮名と漢字を併用した例 〔古今和歌集序注〕
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ただし、基本的に一つの文章の中で平仮名と片仮名を混ぜて用いることは原則としてありませんでした。まれに見かけることもありますが、その場合は役割や性格が違うことを示しているのです。

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